前回のブログでお話ししたように、欧米の多国籍企業では、製品開発で顧客が感じていることを具体化し、アイデアを具現化しているプロセスを見かけます。今回は、日本発ながらも海外に広く浸透しているQFDについて取り上げます。
QFD(品質機能展開:Quality Function Deployment) – 顧客の要求を製品デザインに反映
QFDとは、水野滋氏,赤尾洋二氏により打ち出された方法で、顧客が必要とする解決すべき問題を構造的にとらえ、製品設計に活かすアプローチです。QFDは、トヨタ、ホンダ、等の日本企業では活用されています。しかしながら、どちらかといえば海外での知名度の方が高く、米国のMITや英国のウォーリック大学等の講義でも取り上げられています。
ご参考までに、MIT OpenCourseWareのQFDの講義(”Quality Function Deployment and House of Quality”)をYoutubeで観ることができます。英語のみですが、ご興味のある方は、ぜひご覧ください。
House of Quality(ハウス・オブ・クオリティ)
下記が、赤尾ら『品質機能展開法(1)』(日科技連, 1999)から引用した品質機能展開の表です。(紫字のコメントは、当ブログの筆者が付け加えた補足説明です。)海外では、展開表が家に形が似ているため、House of Qualityとも呼ばれています。
海外のQFDの別名:CIPD – 顧客をインスパイアする製品の開発
モノ作りの現場では、様々なリサーチで顧客の真の要求情報を集めたものの、情報が情報として社内で蓄積したままで、製品作りにうまく活用しきれないことがあります。つまり、イノベーション創出を目指して顧客の情報を集めたものの、製品設計に反映できず・反映し難く、これまで通りの製品づくりの工程のまま、ということがあります。
QFDの特徴は、顧客の要求を設計要素に変換し、具体的な製品設計に落とし込むプロセスを体系化している点にあります。海外では、品質機能展開(QFD)を別名:CIPD(Customer Inspired Product Development: 顧客をインスパイア、つまり顧客の気持ちを高揚させる、製品の開発)の手法と呼ばれることもあります。
QFDの主なステップとポイント
- フレームの設定とポジショニング – 対象品目を決める
- リサーチ – 顧客の真の要求(顧客が抱える課題)情報を集める
- 集めた情報が、顧客の”生の声”であるかどうかを確認
- 製品の感性的な要求もとらえること
- 分析 – 顧客の要求を、求める具体的な品質要素へ変換する
- 要求の表現(~が欲しいなど)ではなく、具体的な特徴を表す
- 既存の製品にとらわれない
- 品質要素の抽出・グルーピング
- 顧客が要求する項目を具現化できるように製品設計の準備
- 企画品質の設定
- 顧客の重要度、他社との比較、自社の達成レベルから設定
- 設計品質:企画目標値・目標規格値の設定
QFDを活用する上での課題
QFDは海外で広く受け入れられているアプローチですが、実は実践する上ではいくつか課題があります。
- 一発で完璧なQFDを作成することは難しい:QFDをもとにプロトタイプを作っても、顧客からの反応が良くない場合があります。そして後になって「ああ、そうか、あの点が抜けていたんだ。」と、気づくこともあります。
- ⇒プロトタイピングは試行錯誤の繰り返し。新たな発見があるたびにQFDを更新していくことをお勧めします。
- 言語化できない感性を設計品質に変えるのは難しい:著書では、「顧客の要求を求める具体的な品質要素へ変換」することを、ことばでの表現を中心に説明していますが、顧客が感じる触感やにおいなどは、ことばで表現できないニュアンスもあります。
- ⇒顧客の要求品質要素に変換する手段をことばに限定せずに、具体的な素材(色や触感特性など)を用いるのも手です。
海外のQFDの事例を探してみると、QFDを原理としてとらえ、さまざまなQFDの発展形が見つかります。もちろん、海外の事例から学ぶことも多いのですが、ぜひQFDの出生地の日本からも、海外に向けて情報発信していきたいと思います。
次回は、国際調査の際にぶつかる問題:ハイ・コンテキスト文化と感性の役割について取り上げる予定です。