ユーザーエクスペリエンス(UX:顧客体験)の理解や価値ある顧客ジャーニーの構築は、特にウェブやアプリ開発デザインの分野で進んでいます。また、顧客と直接接点のある小売店や飲食店等でもお客様の声をサービス向上に活かす取り組みが見られます。
顧客体験理解の壁 – 会えない&ほんの一部の接点
一方で、日常業務で直接顧客と接する機会がない業務の場合や、代理店や卸売・小売店を通じて商品やサービスを消費者に提供する場合、生の顧客と接する機会はなかなかないものです。また、毎日顧客と接する業務としても、顧客にとっては体験の一部にしかすぎない場合もあります。お店で洋服を買った場合、お店での経験も重要な顧客体験ですが、購入後にお店を出た後の体験、例えば、購入商品を入れたブランド紙袋に対する人の視線も顧客経験の一部です。
顧客体験の理解を深めるヒント
顧客体験の範囲をどのように定義するかは、ケースバイケースだと思いますが、ここで顧客体験の理解を深めるヒントとなる手段をいくつか挙げていきます。
その1:一旦、自分を捨てて顧客として商品・サービスに接する
舞台の役者と似ているかもしれませんが、商品やサービスに対する顧客視点を養うためには、一度自分自身の立場を捨てて、顧客として商品・サービスに接して見ることをお勧めします。店舗の場合、ミステリーショッピング(覆面調査:一般客と紛れて商品やサービスを調査)として調査する方法もありますが、純粋に顧客として感じたことを振り返るだけでも、新しい発見があると思います。
ターゲットと離れているからこそ新鮮な目で見ることができる
「いや、自分はターゲット顧客と年齢・性別が違う。」というケースもあると思いますが、逆に全く自分自身がターゲットと違う場合(例えば、自分自身が男性40歳で、ターゲット顧客が20代女性)の方が、自分自身の経験を外して素朴な目で商品やサービスを見ることができると思います。男性の商品開発者が、女性用の生理用ナプキンを着用して装着時の不快感度合いを確認した、という例もあります。
自分自身の「顧客視点」で新たな気づきも
ユーザー理解と言えば、リサーチ専門家に頼ることも多いかと思います。でも、一度「顧客として」商品やサービスに接することで、今まで気がつかなかった商品やサービス回りの顧客の動線や接点が見えてくることがあります。また、リサーチ専門家から出された報告書についても、より理解が深まると思います。
競合他社の商品やサービスも顧客として接してみると、顧客視点で他社品・サービスの特徴を理解できますし、自社製品の差別化点などを考えるためにも役に立ちます。
その2:舞台裏 – 顧客体験の裏側に接する
次にお勧めしたいのが、顧客体験の舞台裏に接してみることです。例えば、コールセンターのお客様の声を直接聞いてみると、問い合わせをしてきた顧客の雰囲気を知ることができます。また、消費財の商品開発者が営業担当者と一緒にディーラーや小売店を回って見るのも貴重な経験だと思います。私自身も消費財メーカー時代、営業担当者と一緒にディーラーや小売店から話を聞くことで、取り扱いたい・お店に置きたいと思える商品ポイントに気づき、商品設計に加味することがありました。もちろん、このような機会を設けるのは簡単ではないと思いますので、関係者と協力関係を築いていくことがベースになると思います。
とは言っても
顧客になりきったつもりでも、どうしても提供側の視点に立って見てしまうのは、ありがちなことだと思います。また、「そのような時間はなかなか取れないし、直接担当業務と関係ないので、顧客として商品やサービスに接するのは後回し」と、いうこともあるかもしれません。でも担当業務と直接顧客接点がないからこそ、顧客視点を養うことで、組織全体が顧客視点へベクトルを合わせることができると思います。それには顧客視点を養う「仕掛け」を作るのも一つの手です。
では、次回に米国の大企業でも実践されている、顧客視点を養う賄い料理的な「仕掛け」についてお話しします。